鈴木一之の市場交差点 ― 経済と社会、変化が交わる地点から考える 「金利と銀行セクターの関係」 鈴木一之の市場交差点 ― 経済と社会、変化が交わる地点から考える 「金利と銀行セクターの関係」

鈴木一之の市場交差点 ― 経済と社会、変化が交わる地点から考える 「金利と銀行セクターの関係」

株式アナリストの鈴木一之です。
今回より、「鈴木一之の市場交差点 ― 経済と社会、変化が交わる地点から考える」として装い新たに、趣向を変えてお送りします。

初回は「金利と銀行セクターの関係」について考えてみます。

株式市場では久しぶりに銀行株が存在感を示すようになっています。
実際に過去2年間、銀行株の動きが実に堅調です。

時価総額トップの三菱UFJフィナンシャルグループ(8306 8306)の株価は、2023年1月に894円でした。
それが2年後の2025年3月20日には2239円まで上昇しました。
この間の株価上昇率は2.5倍に達します。

銀行が属するわが国の金融市場において、この2年間に起きた最も大きな変化は、2023年4月に日本銀行の総裁がそれまでの黒田東彦氏から植田和男氏に交代したことです。

前総裁の黒田東彦氏の下では、「デフレからの脱却」という大きな国家目標に対して「量的・質的金融緩和」、いわゆる「異次元の金融緩和」が採用されました。

伝統的な金融政策とはまるで異なる、壮大なる社会実験が採用されたのです。
これによってマイナス金利を含む極端なまでの低金利がほぼ10年間にわたって維持されました。

黒田総裁の2期10年の任期が過ぎ、後任として2023年4月より植田新総裁が登場すると、今度は異常に低い金利水準の正常化が政策目標とされるようになりました。

折しも新型コロナウイルスへの経済対策として、先進国が積極的な財政政策を打ち出したことが重なります。
わが国でも物価の上昇が徐々に鮮明となり、それと機を一にして賃金の上昇も再開されるようになりました。

植田総裁をトップに戴いた日銀は、2024年3月の金融政策決定会合においてゼロ金利政策を停止し、短期金利の誘導目標を0~0.1%に設定しました。
日本が久しぶりに「金利ある世界」へと足を踏み入れたのです。

続く2024年7月と2025年1月にも、日銀は追加の政策金利引き上げを実施し、現在(2025年4月)では0.5%となっています。

中央銀行である日銀が政策金利を引き上げると、金融市場の全域にわたって玉突き現象が起こり、金利水準が全体に上昇します。

民間銀行は「短期で借りて長期で貸し出す」と言われます。
資金調達の主な手段である定期預金などの預金金利は短期金利に連動して動きます。
反対に、銀行にとって資金の運用先である融資の貸出金利は長期金利に連動します。

この長期金利と短期金利の差、すなわち長短金利差が民間銀行の利ザヤとして収入になるわけです。
金利が上昇すると長短金利差が拡大しやすくなり、それが銀行の収入増に直結して銀行の株価も上昇しやすくなるのです。

資金を借りる側の企業にとって事業機会が増えて資金需要が高まれば、銀行からの借り入れもさらに増えることになり、長期金利の上昇と相まって融資総額も増えます。
銀行の収益は一段と拡大することになり、このような金融市場における玉突き現象の最初の一歩である政策金利の引き上げが、2年間に及ぶ銀行株の堅調な上昇を支えていると見られます。

政策金利は0.5%まで引き上げられましたが、日銀はまだ十分な水準ではないと考えているようです。
これからも「市場との対話」を続けながら、政策金利引き上げの機会を図っていくことになるでしょう。
その折々に銀行株の上昇期待が再び浮上することになると予想されます。

銘柄ピックアップ

三菱UFJフィナンシャルグループ(8306) 三菱UFJフィナンシャルグループ(8306)
日本最大の銀行グループ。前身の三菱銀行が中心となり、東京、三和、東海各銀行が結集。信託では三菱信託、日本信託、東洋信託、東海信託、カードではニコス、消費者金融のアコムもグループに抱える。現社長の亀澤宏規氏は理系出身の銀行トップとして各方面から注目されている。現在は東南アジア市場に力点を置く戦略。

TOPIX、日経平均、グロース250

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三井住友フィナンシャルグループ(8316) 三井住友フィナンシャルグループ(8316)
住友銀行、三井銀行、太陽神戸銀行、平和相互銀行、わかしお銀行によってメガバンクを結成。信託ではSMBC信託銀行、証券ではSMBC日興証券、消費者金融ではプロミス、カードでは三井住友カード、リースを傘下に有する。個人向け金融サービス「Olive(オリーブ)」はひとつのアプリで多機能が使えるとの評判で個人顧客に人気。

株式

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みずほフィナンシャルグループ(8411) みずほフィナンシャルグループ(8411)
都銀上位行だった第一勧業銀行、富士銀行と日本興業銀行の3行が持株会社を設立して誕生した。信託のみずほ信託銀行、証券のみずほ証券ともグループ力を強化している。大規模なシステム障害がしばしば発生。それだけに金融システム維持には最大限の意識を払う。2024年の楽天カードへの資本参加を機に楽天グループとの連携を強化している。

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銘柄選定の背景

金利が上昇する世界には、ふたつの側面がついて回ると考えられます。

ひとつは景気がよい世界です。
そこでは資金需要が増えます。
「デフレからの脱却」どころか、いまや世界中でインフレが高進する世の中になっています。

インフレ下ではモノの値段が持続的に上昇するので、設備投資が活発になります。
今年よりも来年の価格が安いのなら、設備投資は来年に延期した方が賢明でした。
しかしそれは過去の話で、今年よりも来年の方がモノの値段が高いのなら、早いうちに資材を購入して設備投資を行った方がよいはずです。
それだけ資金需要が増え、したがって銀行の貸出業務もこれまで以上に増加するはずです。
そこで銀行の出番です。
中でも規模の大きなメガバンクは融資先もそれだけたくさん抱えています。

そして金利上昇のもうひとつの側面が、債券価格が下落する世界です。
金利の上昇は債券の価格を押し下げます。
銀行は大手から地方銀行、信用組合に至るまで資金運用の一環として債券に投資しています。
その投資先の債券の価格が金利上昇下では値下がりする可能性があります。

近年の銀行の資金運用部はどこもポートフォリオのリスク管理を徹底していて、簡単には損失を被らない体制を整えているはずです。
しかし30年ぶりの「金利ある世界」では、どこに何が待ち受けているかわかりません。
債券運用面でのハードルを回避するためにも、ここは十分に安全策をとってメガバンクを選んでみました。

しかしそうは言ってもコンコルディア・フィナンシャルグループ(71867186)、 めぶきフィナンシャルグループ(71677167)、 群馬銀行(83348334)、 千葉銀行(83318331)、 ふくおかフィナンシャルグループ(83548354)など、地方銀行の大手行でも問題はないはずです。


以上

鈴木一之

鈴木一之

株式アナリスト

1961年生。
1983年千葉大学卒、大和証券に入社。
1987年に株式トレーディング室に配属。
2000年よりインフォストックスドットコム、日本株チーフアナリスト
2007年より独立、現在に至る。

相場を景気循環論でとらえるシクリカル投資法を展開。

主な著書
「賢者に学ぶ 有望株の選び方」(2019年7月、日本経済新聞出版)
「きっちりコツコツ株で稼ぐ 中期投資のすすめ」(2013年7月、日本経済新聞出版社)

主な出演番組
「東京マーケットワイド」(東京MXテレビ、水曜日、木曜日)
「マーケット・アナライズplus+」(BS12トゥエルビ、土曜13:00~13:45)
「マーケットプレス」(ラジオNIKKEI、月曜日)

公式HP
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