円安・円高とどう向き合う?為替介入の基礎知識と投資戦略 円安・円高とどう向き合う?為替介入の基礎知識と投資戦略

円安・円高とどう向き合う?為替介入の基礎知識と投資戦略

為替介入とは?

為替レートが変動すると、経済や投資だけでなく、私たちの身近な生活にも大きな影響が出ます。円安が進めば輸入による仕入れコストが上がり、日本国内での物価高が生活に深刻な影響を与える場合もあります。逆に、円高が進めば輸出企業は、円換算での売上が減少するため業績悪化につながる可能性もあり、株価の下落も考えられます。為替レートは日々変動するものですが、あまりにも急激な変動は、不安定な経済状況を招く恐れがあります。

為替介入とは、日本の自国通貨「円」の為替レートを安定させるために、日本銀行(以下、日銀)が行う外国為替市場での通貨売買のことをいいます。
具体的には、円安が進みすぎている状況ではドルを売って円を買う「円買い・ドル売り介入」を行います。一方で、円高が進みすぎている状況では円を売ってドルを買う「円売り・ドル買い介入」を行います。

<為替介入のイメージ> 円安が進行している場合の為替介入


為替介入のイメージ

※上の図は筆者が作成

為替介入は、いわば公的介入であるため、経済や投資家心理に大きな影響を与える可能性もあります。そのため、実際に通貨売買は行わずに言葉だけ(発言)で外国為替相場の動きを変えようとする「口先介入」が行われることもあります。
「口先介入」は、実際の通貨売買を行う前に市場の過熱した動きを抑えて、為替レートの安定化を図ることが目的です。しかし、実際は、口先介入だけで市場の動きを抑えることは難しいケースが多いようです。

日銀とは?

為替介入を行う日銀は、日本の中央銀行です。中央銀行とは、国の金融システムの中核です。日本の中央銀行である日銀は日本銀行法という法律に基づいて日本経済の安定に貢献することを目的として設立された法人ですが、政府からの独立性を有しており、金融政策を決定して実行する権限を持っています。

ただし為替介入は、日銀単独で実施を決定するものではなく、財務大臣の権限において実施されます。日銀は財務大臣の代理人として、その指示に基づいて為替介入の実務を行います。しかし、日銀には為替レートの動向を確認し、財務省に対して情報提供や助言を行う役割もあります。つまり、為替介入は司令塔の役割を担う財務省と、実務部隊かつ情報部隊である日銀が協力して、実施されるということです。

日銀が実施した過去の為替介入の事例をご紹介します。

1998年:アジア通貨危機と円安への対応

【背景】
1997年にタイで発生した通貨危機の広がりに加え、日本の金融システムへの不安も重なり、急激な円安が進行しました。

【為替介入の結果】
1998年に急激な円安の進行の抑制、アジア経済の混乱からの防衛を目的として為替介入が実施されました。その結果、円安の進行は一時的に抑制されました。ただし、その後、外的要因(アメリカの長期金利低下など)によって反転するまで円安基調は継続しました。

2010年:リーマンショック後の世界的な金融危機による円高への対応

【背景】
2008年のリーマンショック後、世界的な金融危機が広がる中、リスク回避のために円への買いが集中して、急激な円高が進行しました。

【為替介入の結果】
投機的な円買いの抑制、輸出競争力の維持と景気の下支えを目的として2010年に為替介入が実施されました。その後、一時的には円安に転じましたが、海外経済の不透明感が強く、再び円高基調に戻りました。

2022年:記録的な円安への対応

【背景】
アメリカがインフレ抑制のための積極的な利上げを行う一方、日本は金融緩和政策を継続していました。この金融政策の違いが、日本とアメリカの金利差を拡大させました。その結果、金利の高いアメリカドルを買って、金利の低い日本円を売る投資家の動きが活発になり、急激な円安が進行しました。

【為替介入の結果】
急激な円安の進行の抑制を目的に、為替介入を実施して一時的に円高に転じました。しかし、日本とアメリカの金利差は依然として大きく、再び円安基調に戻っています。

<過去の為替介入の例>


過去の為替介入の例

※上の表は筆者が作成

為替介入のメリットとデメリット

為替介入には、メリットだけでなくデメリットもあります。日本および投資家の視点における、メリットとデメリットをご説明します。

日本にとってのメリット

日本にとって、国内企業の輸出入企業の業績への影響を緩和し、経済の安定化を図れることは大きなメリットです。また、市場における投機的な動きの抑制にもつながるため、市場の混乱を落ち着かせることもできます。日本円の価値を適切に保つことは、国際的な信用維持にもつながります。

日本にとってのデメリット

為替介入を実施するためには、多額の資金が必要になります。そのため、財政負担が増加する可能性があります。また、公的介入であるため、市場の自然な動きにゆがみを生じさせるため、長期的な観点では経済に悪影響を及ぼす可能性がゼロではありません。先にご紹介した事例からも分かる通り、為替介入の効果は限定的となり、持続性がない場合もあります。

投資家にとってのメリット

為替レートの急激な変動は、投資家にとって大きなリスクです。為替介入によってそのリスクは軽減されるため、投資家にとってはメリットといえます。また、市場の動きに変化が生まれる可能性もあるため、新たな投資のチャンスが生まれるともいえるでしょう。

投資家にとってのデメリット

為替介入は市場の自然な動きにゆがみを生じさせることになります。そのため、本来の自然な市場の動きに基づいた投資が難しくなる場合があります。また、市場の動きが急激に変化して損失を被る可能性があります。

過去と現在における為替介入の状況比較

為替介入は現在のみならず、過去にも為替介入は行われています。しかし、過去と現在では為替介入の状況に変化が生じています。その変化についてご説明します。

介入の目的

事例で紹介した1998年のアジア通貨危機に対する為替介入は、当初アジア各国が単独で為替介入を行いました。その後、危機の深刻化に伴って国際通貨基金(IMF)やそのほかの国も資金支援や協調介入を行いました。つまり、過去の為替介入では国際的協調が重視されていたといえます。

現在は、2022年の記録的な円安に対する為替介入のように、急激な円安による輸入物価の上昇抑制、国民生活への影響緩和が主な目的です。また、投機的な動きを抑制し、市場の安定化を図ることも重視されます。各国が自国の経済状況を優先する傾向が強く、協調介入は以前ほど頻繁には行われていません。

市場環境

過去の為替市場は、主に「モノやサービスの売買」と「実際に外貨が必要な人」の取引が、為替レートを決める主な要因でした。しかし、現在では、金融取引や投機的な動きが為替市場に大きく影響を与えています。特に、インターネットの普及により、市場における取引のトレンドが瞬時に変化するようになりました。

政策金利の影響

以前の為替市場の環境下では、現在と比べると政策金利の差が為替相場に与える影響は小さいものでした。現在は、日本とアメリカとの政策金利の差が大きく為替相場に影響を与えた事例からも分かる通り、貿易等の取引より金融取引や投機的な動きの規模が大きくなっています。政策金利が為替レートの変動に与える影響は以前よりも大きくなっているといえます。

為替介入があったとき、どう対応するか

為替介入は、事前に実施の発表は行われません。そのため、為替介入のタイミングを正確に把握することは難しいです。ただし、円安や円高が急激に進行している状況で、口先介入や、為替介入後の発表が行われる場合があります。為替介入が市場に与える影響は大きいものですが、効果の持続性は必ずしも高いとはいえません。為替介入の発表に慌てるのではなく、平時から投資スタンス(短期か長期など)や投資方針(損切ライン決め、分散投資の実施など)をあらかじめ決めておき、冷静に対応する準備が肝要です。

ご注意事項

キムラミキ

キムラミキ

ファイナンシャルプランナー 社会福祉士

日本社会事業大学で社会福祉を学んだ後、外資系保険会社、マンションディベロッパーに在籍後、FPとして独立。現在は、株式会社ラフデッサン 代表取締役として、個人向けライフプラン相談、中小企業の顧問業務をお受けする他、コラム執筆、セミナー講師、山陰放送ラジオパーソナリティとしても活躍中。
また、ライフワークとして障がい児・者の親なき後の経済準備についての啓発活動を行う上での課題研究を行うため、放課後等デイサービスや学習に困り感のある子供の学習支援教室にて、障がいのある子供たちの学習支援にも取り組んでいる。

株式会社ラフデッサンHP
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